京都芸術大学発の DX 推進企業クロステック・マネジメントが、シャープやさくらインターネットなど国内企業8社とともに、AI 開発の協同アライアンス「Enable AI Foundry」を11月26日に発足した。計算資源やハードウェア、データ処理環境、実装ノウハウを共有し、地域から AI 人材ネットワークを育てる狙いだ。大阪で開催された記者発表会で、クロステック・マネジメント取締役の小笠原治氏らに話を聞いた。
“使う AI”から”つくる AI”へ

生成 AI の普及が進む一方で、日本企業や個人が AI 開発に参入するハードルは依然として高い。計算資源の不足、ハードウェア整備の負荷、データ処理の前工程、そして実装に向き合う人材の不在——これらは多くの企業・自治体・個人に共通する構造的課題となっている。
「日本は AI で遅れています。インターネット時代には参戦すらできなかった。スマホで何か課金するとき、30% を Apple や Google に払いますよね。そのプラットフォームを自分たちで作れと言われたら作れない。生成AI も今、皆さんが普段使っているものの、ほとんどは日本のものではありません」(小笠原氏)
Enable AI Foundry は、こうした危機感から生まれた取り組みだ。GPU クラウド、ハードウェア、AI 実装支援、データ運用、地域開発など多様な専門性を持つ9社が参画し、固定分担に縛られず、プロジェクトごとに強みを柔軟に結び合わせる協同ネットワークとして機能する。
構成員として参画するのは、シャープ、さくらインターネット、Tellus、Jizai、miibo、バオバブ、アクティバーチ・コンサルティング、京都芸術大学、そしてクロステック・マネジメントの9社。
さくらインターネットが GPU などの計算資源を、シャープがハードウェアや実証フィールドを提供し、スタートアップや大学が新しいユースケースを生み出す。単独では手が届かない AI 開発の「前提条件」を、複数の企業が持ち寄ることで解決しようという座組みだ。
「コンピューティングの世界では、スーパーコンピュータからワークステーション、そして電卓へとダウンサイジングが進みました。AI でも同じことが起こるでしょう。今のクラウド AI が一番上にあり、それがオンプレのサーバー、そしてローカルへと広がっていく。シャープは電卓という切り口で世の中にコンピュータを届けました。AI でも、まだ誰も想像していない切り口が作れるはずです」(伊藤氏)

「映像を残さず意味だけを撮る」セマンティックカメラ
アライアンスの初期プロジェクトとして注目されるのが、シャープが開発を進める「セマンティックカメラ」だ。従来のカメラが映像を記録するのに対し、セマンティックカメラは映像そのものを保存せず、「何が起きたか」という意味情報だけを抽出する。映像データを送らないため通信帯域を大幅に削減でき、プライバシーへの配慮も可能になる。
「例えば浴室での転倒検知。高齢の親御さんを見守りたいとき、映像を残すのではなく『誰々さんが倒れました』というテキストだけを通知する。プライバシーに配慮した監視が可能になります。学校に監視カメラが100個あったら嫌ですよね。でもセマンティックカメラなら、クマがそこにいるという意味だけを通知できる」(小笠原氏)
シャープは2024年から京都芸術大学、クロステック・マネジメントと連携し、AI との新しい関係性を探るプロトタイピングを進めてきた。大企業の技術力と、大学やスタートアップの柔軟な発想を掛け合わせる——。この1年間の協業が、今回のアライアンス発足につながった。
12月22日から2026年1月5日にかけて、セマンティックカメラの新たなユースケースを創出するオンラインハッカソンも開催される。家庭、車内、職場、店舗といった領域で、プライバシーに配慮した AI 活用のアイデアを募る。優秀な成果には、シャープからの出資や共同開発、アクセラレーション支援も検討されるという。
地方に AI 開発の「場」を作る

Enable AI Foundry が掲げるもう一つの重要なミッションが、地域における AI 開発環境の整備だ。活動拠点「Enable AI BASE」は、大阪(Blooming Camp)、京都(京都芸術大学)、福岡(Fukuoka Growth Next)、沖縄(SAKURA innobase Okinawa)の4カ所でスタートする。勉強会やハッカソンを通じて、地域の AI 人材が出会い、切磋琢磨できる場を作る。
「例えば大阪で、AI の勉強会や人材がマッチングされるイベントがどれだけ行われているか。多分、東京の10分の1以下です。切磋琢磨する仲間と出会うというのは、10年、20年前の日本のスタートアップと同じ話がまだ続いている。そういった場の提供を進めていきます」(小笠原氏)
さくらインターネットは、アライアンスメンバーが活用できる GPU をはじめとした計算資源を拠出する。AI 開発には大量の計算資源が必要だが、個人や中小企業が単独で用意するのは難しい。こうしたインフラを共有することで、参入障壁を下げる狙いがある。
「AI を活用した取り組みが事業であれ、文教であれ、公共であれ、日本中にあふれる世の中になってほしい。数が多くなれば質も上がります。さくらインターネットとしては大量の計算資源を抱えていますので、取り組みが商用化やマネタイズにつながるところまでお手伝いしたい」(角氏)

日本は AI で「復権」できるか
記者発表会では、日本の AI 産業の将来についても議論が交わされた。日本語話者は世界の2% に過ぎず、人口も減少している。市場規模が縮小すれば、海外企業が日本向けの AI を作り続ける保証はない。日本語で動く AI、日本の文化や商習慣を理解した AI を、自分たちで作れる体制が必要だという危機感がある。
「日本人のビジネスノウハウや習慣、企業努力といったものを海外の AI に大量に投げ込んでいくと、日本人の強さだったものがすべて奪われていく未来もあり得ます。膨大な日本語データや歴史のデータを海外に明け渡すことなく、日本の中で発展していく。そのチャンスはまだある」(角氏)
一方で、ソフトウェアだけの勝負では海外勢との差を埋めるのは難しい。そこで注目されるのが、AI とハードウェアの組み合わせだ。Jizai 代表取締役 CEO の石川佑樹氏は、スタートアップとしての可能性をこの領域に見出している。同社は今年の CES で AI ロボットを出展し、海外展開への足がかりを掴んだ。
「ハードウェアはノンバーバル。言葉で説明しなくても届くのが良いところです。AI のアプリケーションに関しては、海外の大手企業も横一線。このアライアンスで日本から海外に届けていく取り組みができるといい」(石川氏)
Enable AI Foundry は今後、5つのドメイン(Life/Learn/Make/Work/Enjoy)ごとに10のプロジェクトを始動させる予定だ。2026年2月には、テーマ単位で参加できる個人・法人会員制度の開始も予定している。構成員以外の企業や個人も、プロジェクト単位でアライアンスに参加できる仕組みを整える。
「2年後ぐらいに最初の成果が出て、それ以降にはトータル10個ぐらい出てくれたらいい。AI を使って1人当たりの GDP が倍になるような国にする。そこに資するアプリケーションやハードウェアを、このアライアンスから生み出したい」(種谷氏)
インターネット時代に「参戦すらできなかった」日本が、AI 時代に巻き返せるか。その試金石となる取り組みが、大阪から始まった。
情報開示:本誌を運営する株式会社 THE BRIDGE は Enable AI Foundry の事務局としてプロジェクトに参加しております。
この記事は THE BRIDGE に掲載された記事の転載です。